型を作るために。

張子の型を作るために何が必要でしょうか。

まずは技術ですね。それなりの形を作れる粘土細工の技術が必要です。器用な人ならそこそこすぐにできる技術ではありますが、やはりそこには多少なりともセンスが必要と考えます。立体造形のセンスですね。これって、案外難しいものです。

私は大学在学中にたまたま江戸大道芸の飴細工の「飴細工師・有芽屋3代目」の方に弟子入りが出来ました。

飴細工とは「さらし飴」を80度くらいの熱を加えて柔らかく溶かし、その柔らかい飴を手とハサミで加工して色々な動物やキャラクターを作る大道芸です。

これを生まれて初めて生で学生の頃見たわけですが、あまりの見事な技に目が釘付けとなり、

「これは張子の型を作るために習得した方が良い技術かも」

とは思わなかったのですが、何となく弟子入りをすることになり、学校を卒業するころには免許皆伝を頂きました。

これが結果的に物を形つくる際の大きな基礎を学ばせて貰った事になりました。(この詳細と飴細工についてはまた後ほど詳しく書きます)。

そうして免許皆伝後、大道芸飴細工師4代目としても活動するわけですが、その際にたまたま仕事で一緒になった焼き物屋さんから、

「飴でそんだけ作れるなら、この焼き物の土でも何でもこさえられるんじゃないか?。来年の干支を作ってみたいからそれだけでもコツを教えてくれよ」

と言われ、そうか、素材が飴でなくても同じ要領で作れるかも、と思い、実際焼き物屋さんの実演コーナーに行って土で作ってみると自分で言うのもなんですが、中々の出来栄えでした。早速焼き物屋さんにコツを教えました。

しかし、その焼き物の御主人は何度やってもうまく出来ません。土のプロでその場で轆轤がなくてもあっという間に器を作ってしまうほどの腕前でも、動物やキャラクターは、どこかちぐはぐな印象がぬぐえない出来栄えとなってしまうのです。結局小一時間一緒にやっていましたが、

「俺には向いてない。器だけででいいや」

となりました。

ここでようやく気が付きました。物を作るのにはそれなりにセンスが必要なんだなと。(もちろん私は動物やキャラクターは作れますが、器を作るセンスはありませんでした。それぞれ向き不向きがあるのでしょうね)

立体造形ではモノを単純に作るだけではなく、例えば「犬」を作るとしたら「犬」としての特徴、そしてその生き物としての骨格上のバランスとポージングのバランスも必要になります。

それを踏まえたうえで、今度は置物としてどのような「テーマ」でどのような「サイズ」で「どんな意味を持たせるか」、と考え最終的なデザインを決めます。作家性のある一品作を作るわけではないので、常に大衆に広く受け入れて貰えることが大前提となります。

また張子の場合は「和紙を張る」「型から和紙をはがす(抜く)」の工程があるため、張りやすさ、剥がし(抜き)やすさ、も一応考慮にいれる必要があります。

その後も彩色をするうえで、見栄えのする彩色になるかどうか、も考慮に入れなければなりません。ただ作りたいから作ったものの、色味が全くなかったり、偏ったりするとつまらないものになります。

毎年春先には新作の型を作りますが、それを形にするためには前年の秋口頃から「型作り」を意識し出しています。色々加味したうえで形を決定するので割と時間が掛ります。

そういった裏事情を知った上で作品を見てみるとまた面白い発見が出来るかもしれません。